カイザーエレクトロニクスからの手紙(2003年8月)

 

概要

2002年7月9日

Mai Logicは「カイザーエレクトロニクスと統合攻撃戦闘機 (JSF) 軍用の飛行制御/表示システムを共同開発する契約を発表した」とプレスリリースを掲載。

※通常、共同開発の場合両社からプレスリリースが出されるが、カイザーエレクトロニクス側からのプレスリリースは確認できていない。

 

2003年8月21日と8月27日の日付で、カイザーエレクトロニクスからArticiaPチップの製造についての手紙が出されている。

 

この2通の手紙からは、Mai LogicがFPGAチップで開発したものをASICという専用チップにするために、Innochipというデザインサービス会社に依頼し、FPGA→ASIC用に設計を変更しTSMCファウンドリ)で製造した事が確認できる。

TSMCで製造されたチップは、納入されたが基板上で動かなかった為、その責任がどちらにあるのかという事でMai LogicとInnochipが争ってチップの開発が停滞している事が書かれている。

 

また、深田萌絵とジェイソン・ホーが2021年5月にVote Sangari チャンネルに出演した際に提示した手紙では、カイザーエレクロトにクスのどの部署から手紙が出されたかは隠されているが、

深田萌絵ブログの2019年12月26日の記事「台湾が握る米中戦争の鍵。TSMCがF35設計を握るナゾ」では、1通目に関しては下請け・サプライヤー管理部から出されたものである事が確認できている。

※2通目はVote Sangari チャンネルで初登場した為、部署不明。

 

 

 

深田萌絵ブログ記事「台湾が握る米中戦争の鍵。TSMCがF35設計を握るナゾ」からの手紙画像

「社長からの手紙だ」と盛る

しかし、深田萌絵ブログの2015-11-29の記事第16回戦 逃亡犯」では陳水扁総統へ宛てられた手紙は、カイザーエレクトロニクスの社長から出された手紙だと紹介されている。

「なんだよ、このファイル」
本も読まない書類も作らないマイケルがファイルなんて、と思って深田は好奇心でファイルを開いた。
ペラリとカイザーエレクトロニクス社の社長から陳水扁に当てられた手紙が出てきた。
『親愛なる陳水扁総統。ジョイントストライクファイター(統合打撃戦闘機)の開発を米国政府から受けて以来、私達は中国スパイや台湾マフィアからの執拗な攻撃にさらされ、特に王源慈氏の会社は危険な状態にあります。総統におかれましては、台湾国内における王氏の活動をサポートして頂きたく存じ上げます。
カイザーエレクトロニクス社、社長より』
「なんだ…これ…」
カイザーエレクトロニクス社といえば、ロッキードマーティン社の下請けでマイケルと共同で開発を行なっていた会社だ。
その会社の社長がわざわざ台湾総統に手紙を書くってどういうことだ。そして、何故その手紙の写しがここにあるんだ。

 

内容も随分と違うので、どれだけ相違があるか実際の手紙の翻訳と比べてみることをお勧めします。

王源慈とは、深田萌絵ブログ内のジェイソン・ホー(后健慈)の仮名

 

 

①カイザーエレクトロニクス→陳水扁総統宛ての手紙(2003-08-21)の和訳

 

カイザーエレクトロニクス

ロックウェルコリンズカンパニー

プレシデント陳水扁

2003-08-21

 

親愛なる陳水扁総統。

 

私は、米国の統合打撃戦闘機(JSF)プログラムが危機に瀕していることをお知らせするために、この手紙を書いています、あなたの早急な関心と援助をお願いします。

当社の顧客であるロッキード・マーティン社は、米国空軍、海軍、海兵隊の戦闘機や攻撃機に代わる次世代戦闘機であるJSFの製造を、米軍史上最大の契約で獲得しました。また、F-35戦闘機と呼ばれるこの航空機は、カナダ、オーストラリアなどのチームの協力を得て開発・製造されます。

ロッキード・マーティン社がカイザー・エレクトロニクス社に発注した第一次下請け契約の条件に基づき、カイザー社はこのF-35 JSF航空機用の大型プロジェクション・ディスプレイを開発しています。提案されているコックピットディスプレイシステムのハードウェアとソフトウェアは、非常に大きなフルカラーの太陽光で読めるディスプレイを提供することで、JSFパイロットに大きな操作上の利点をもたらします。

カイザー社とMai Logic社は、重要な活用技術の1つであるMai Logic社のArticiaPチップセットを組み込むことで、フライトコントロール/ディスプレイシステムを共同開発する契約を締結しました。このArticiaPのサンプルを検証する作業を始めようとしていた矢先、チップの製造に関わる“ある商業上の問題”が起きたと知らされました。結果として、ArticiaPは計画通りに納入されないかもしれず、これは私たちにとって大打撃であります。

この問題を解決するために、是非とも陳総統のお力をお借りしたいと思います。私たちはそのような支援を非常に前向きにとらえており、私たちの顧客であるロッキード社とその顧客である米国海軍および米国空軍にもこのことを伝えたいと思います。ご協力に感謝いたします。


下請け&サプライヤー管理部
ロックウェル・コリンズ社のカイザー・エレクトロニクス

 

 

②カイザーエレクトロニクス→AITへの手紙(2003-08-26)の和訳

 

カイザーエレクトロニクス→AIT宛ての手紙

 

カイザーエレクトロニクス

ロックウェルコリンズカンパニー

 

American Institute in Taiwan(米国在台湾協会)

宛先: ダグラス・H・パール取締役

件名:Innochip社とのArticia Pチップ開発について

 

拝啓、パール様:

米国カリフォルニア州サンノゼにあるロックウェルコリンズ社のカイザーエレクトロニクス社は、テキサス州フォートワースにあるロッキード・マーティン社の下請け会社です。ロッキード社は、アメリカ海軍のプライムコントラクターで、次世代の統合打撃戦闘機(JSFF-35戦闘機の開発を行っています。

JSF F-35戦闘機は、英国、カナダ、オーストラリア、オランダ、イタリア、デンマークなど、多くの国際的な参加者と共同で開発・生産されています。カイザー社は、ヘッドダウン式のMFD(Multi-Functional Display)とHMD(Helmet Mounted Display)の2つのアビオニクス・ディスプレイを設計しています。MFDは、プロジェクションディスプレイ技術を用いたパノラマディスプレイです。

 

MFDで最も重要な専用IC(ASIC)の一つは、カイザーのサブコンであるMai Logicによって開発されたFPGAです。
Mai社はこのFPGAの設計をし、台湾のInnochip社に(IC化の) 委託をしました。
InnochipはTSMCでの製造のために設計を弄りました。
やがてチップは製造されCCA(基板)に装着されMai Logicに送られました。しかしチップはMaiの設計したように動かず、どう見てもInnochipが担当したところに問題があるようである。このエラーはすぐ修正されなければなりませんが、両者はこのチップを巡って法的な紛争を始める可能性があり、Innochip社はエラーの修正を拒否しています。
このような対応の不備は、JSFプログラムに重大な損害を与える可能性があります。

カイザー社とその顧客は、Mai Logic社とInnochip社との間のこの紛争の「罪のない犠牲者」であるため、私たちは、Innochip社にチップのエラーを直ちに修正するように強制するために、貴社のオフィスが提供できるあらゆる支援を要請します。
Innochip社は、Mai Logic社との紛争の解決と並行してこれを行うべきであり、最終的な紛争の解決を待つべきではありません。
皆様のご協力とご支援をお願いいたします。

 

ロックウェル・コリンズ社のカイザー・エレクトロニクス

 

この手紙で判明した事

・カイザーはMFD(マルチファンクションディスプレイ)とHMD(ヘルメットマウントディスプレイ)の2つのアビオニクス・ディスプレイを設計していた。
・Mai Logicが担当するArticiaPチップは、MFD(マルチファンクションディスプレイ)に利用される予定だった。
・Mai LogicはFPGAチップ上で設計を行い、InnochipがIC化の為の設計変更とマスクデータ作成までを行い、製造はTSMCが請け負った。
FPGAチップ上での設計ではそのままICチップ設計にはできない為、Innochipが設計をいじる事はごく当たり前の作業。)
TSMCからチップは納入されたが、基板上で動かなかった。

 

また、判明している事実の時系列と照らし合わせると、
・カイザーのMFDは2004年6月に設計レビューを終え、10月に納入された。
・Mai Logic のサイト情報から見ても、ArticiaPチップのサンプルは延期を繰り返しており、出荷された事実は見当たらない為、カイザーが納入したMFDでは別の会社のチップが使われたと推察される。
・量産版F-35ではカイザーのMFDは採用されず、L3ディスプレイ社のMFDが採用されている。

 

解説動画

動画でも解説しています。

youtu.be

その後の流れ

その後、Mai Logicは2度目のArticiaPチップの製造に挑戦している。

その際はSocle TechnologyがIC化の為の設計変更とマスクデータ作成までを行い、IBMが製造担当であった。

しかし、マスクデータがIBMに渡った段階で、Mai Logicの開発費未払いが発生し、2004年12月にSocle TechnologyはMai Logicへ開発費の支払いを求める訴訟を起こしている

 

そのため、Socleは製造担当のIBMに対して、渡したマスクの差し止めを行っている。

SocleからIBMへの手紙(2005-01-12)

SocleがIBMへマスクの差し止めを行った手紙(2005-01-12)

手紙の翻訳

2005年1月12日 
投稿経由

バス・A・フランセン氏 
副社長 
〒106-8711 日本東京都港区 3丁目 六本木2-12 IBMアジア太平洋本社 

Re: 半導体受託製造別紙第1号~受託販売契約書第1号~受託販売契約書No.001280 


親愛なるフランセン様:

この手紙により、Socle は IBM に対し、2004 年 7 月 29 日付の発注書番号 1930031 に関連するマスク ワーク セットの権利が依然として Socle にあることを再度表明したいと思います。Socle の許可なしに IBM に対して行われた前述のマスク ワーク セットに対する権利の主張は虚偽であり、認められません。

お気軽に電話番号までご連絡ください。886-3-5163166 内線 201またはファクシミリ番号。ご質問がある場合は、886-3-5163177 までお問い合わせください。

 敬具、
<署名>

デビッド・ライウ
社長
Socleテクノロジー株式会社

CC: 台湾IBM株式会社 クライアント・マネージャー T.M. Wang氏

 

SocleがIBMに手紙を送った背景

背景には、Mai LogicとInguard(共にジェイソンの会社)が北京の九冠电脑(ARC.9)とクロスライセンス契約をしたことがある。

(※2004-09-15 Mai Logicプレスリリース

(※2004-09-17 中国での報道

さらにこの訴訟の中で、2004年11月に北京の九冠电脑(ARC.9)がMai LogicからArticiaPの独占製造権を取得した事が判明。

 

つまり、ジェイソン・ホーがF-35に採用された自分の技術と謳っているArticiaPチップの独占製造権は、2004年11月には中国北京の会社に譲渡されていたのである。

 

ジェイソン・ホーがF-35の技術としているArticiaPチップの技術は、深田萌絵とジェイソン・ホーが様々な媒体で語る「中国スパイや青幇、浙江財閥に狙われ技術を盗まれた」のではなく、ジェイソン・ホーの会社Mai Logicが自ら中国北京の会社に渡していたのである。

 

ただし、ArticiaPチップはカイザーエレクトロニクス社のMDF設計レビュー終了(2004年6月)に、2回目の製造が間に合っていない為、F-35MFD(マルチファンクションディスプレイ)に使われていないはずである。

 

2004-06   カイザー MFDの設計レビュー終了

2004-07-29 ArticiaP(2回目)SocleからIBMファウンドリ)へ発注 マスクデータが渡る

※その後開発費未払いやArticiaPの中国企業への権利譲渡等があり、SocleがMai Logicを訴える 

 

さらに、カイザーエレクトロニクスのMFDは完成しテスト飛行などもされているが、背面投影型のディスプレイで視認性の問題やメンテナンスの問題があり、量産版のF-35には採用されていない。

L-3ディスプレイ社のディスプレイシステムが採用されている。

 

 

※手紙に「Socle の許可なしに IBM に対して行われた前述のマスク ワーク セットに対する権利の主張は虚偽であり、認められません。」とある。

Socleが台湾と米国で、支払いを求める訴訟を起こしたことからも、

この開発中のArticiaPチップの権利譲渡について、Mai Logicは、FPGA→ASICチップへのデザイン変更を依頼されたSocle(しかも途中でMai Logicからの支払いが滞っている)に何も伝えていなかったか、もしくは未払いが発生している支払いについてSocle側が不安に思う行動をしていたのではないかと推察する。